美しい日本
陶淵明 「桃花源記」
初極狹,纔通人。
復行數十歩,豁然開朗。
土地平曠,屋舍儼然,有良田美池桑竹之屬。
阡陌交通,鷄犬相聞。
其中往來種作,男女衣著,悉如外人。
黄髮垂髫,並怡然自樂。
初め極めて狹く, 纔かに人を通すのみ。
復た行くこと數十歩, 豁然として開朗。
土地平曠として, 屋舍儼然たり, 良田美池桑竹の屬有り。
阡陌交も通じ, 鷄犬相ひ聞ゆ。
其の中に往來して種作するもの, 男女の衣著, 悉く外人の如し,
黄髮 髫を垂るも, 並に怡然として自ら樂しむ。
入り口は初めは極めて狭く、わずかに人が通れるほどだったが、数十歩いくと、からりと開けた。眼前に広がった土地は広々としており、こざっぱりした家が並びたっている。良田、美池、桑竹の類があちこちにあり、あぜ道が縦横に通じている。そしてその中を、鶏や犬の鳴き声がのんびりと聞こえてくる。
この段は、漁師が始めて目にした桃源郷のイメージを描いている。何も不思議なことは描かれていない。桃源郷らしい長閑さは「鷄犬相ひ聞ゆ」という部分によく現れているが、これは老子の言葉「隣国相望み、鷄犬の声相ひ聞ゆ、民、老死に至るまで、相往来せず」よりとっている。
老子は理想郷のあり方を小国寡民に求め、その具体的な姿をこのような言葉で表したのであった。陶淵明の理想郷も、老子のイメージを引き継いでいることを物語っている。
このなかを行き交い、或は耕作する人々といえば、男女の衣服は(外の)普通の世界の人々に異ならない、また黄ばんだ髪の老人と髫を垂れた子どもたちはみな怡然として屈託なさそうである。
画像をクリックすると拡大してスライドショーできます